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栽培品種と技術TECHNIQUE
果樹園について
栽培品種販売分4種と次世代の3種

当果樹園では黒粒ぶどう1品種、赤粒ぶどう2品種、緑粒ぶどう1品種 合計4品種を販売しております。また、新しい品種として、シャインマスカットの血を受け継ぐ「スカーレット」「ヌーベルローズ」の2品種を育成し、品質が良ければ将来、販売する予定です。

ぶどうのみならず経済栽培する作物は、形状、味、食感などの品質だけではなく、耐病性、耐寒性など日本に適した品種を掛け合わせて、より優れた品種の開発を繰り返しています。有名なところでは、広島県東広島市安芸津町にある、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構(通称 農研機構)、民間では山梨県にある植原葡萄研究所などが、新しい品種を次々に開発しています。

今、食べているぶどうが、なぜこのような色をしているのか、このような味なのかを、来歴をさかのぼり、先祖の味と比較しながら食すのもなんだか粋ですね。

黒ぶどう

ピオーネ

岡山県が全国生産量No.1のぶどう

歴史

岡山県が全国生産量No.1を誇るピオーネは、昭和32年(1957年) 静岡県伊豆長岡町(現在の伊豆の国市)の井川秀雄氏が「井川210号」として、「巨峰」を母、「カノンホール・マスカット」を父に交配したものです。 当初の「井川210号」から、昭和46年(1971年) 山梨県の土屋長男氏によって、「パイオニア」と命名されましたが、昭和48年(1973年)の種苗名称登録で、「ピオーネ」(イタリア語で開拓者)と改名され登録されました。

岡山県での栽培は昭和50年(1975年)頃から始まりました。官民一体となった試験研究により栽培技術が確立し、ウイルスフリー苗(ウイルスに感染していない健全な苗)が普及し始めた昭和55年(1980年)前後、急激に栽培が広まっていきました。

生産量

ピオーネの全国総生産量は1万9900トンで、県別でみると岡山県が1位で、総生産量の40%(7500トン)、2位は山梨県で28%(5890トン)と両県で70%近くを占めています。また、広島県が3位、香川県が4位となっており、中四国地域での栽培が盛んです。

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特徴

「巨峰」と「カノンホール・マスカット」との交配により育成されたもので、「巨峰」よりも品質は優良です。果粒は13~18グラムと「巨峰」より一回り大きい倒卵形、果皮は紫黒色でつやがあり、果肉は締まりながらも舌触りはなめらかで風味は濃厚です。冷凍庫で凍らせ、シャーベットにしても美味しくいただけます。熟期は9月上旬から10月上旬です。

甘み酸味粒の大きさ

赤ぶどう

クイーンニーナ

期待の新品種

歴史

安芸津20号に安芸クイーンを交配した品種で、農研機構 果樹研究所ぶどう・カキ研究拠点で開発されました。品種登録は2011年です。

特徴

果粒がピオーネより大きく、肉質の硬い噛み切りやすい崩壊性なのが、最近の消費者の好みにマッチしています。近年登場した品種なので、まだ流通量は少ないですが、生産者の間では安芸クイーンに替わる赤系大粒品種として期待されています。熟期は9月中旬~9月下旬です。

甘み酸味粒の大きさ

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コトピー

シャインマスカット系の赤粒ぶどう

歴史

シャインマスカットに甲斐乙女を交配した品種で、山梨の志村葡萄研究所で開発されました。

特徴

果粒はシャインマスカットと同じくらいの大きさで、スッキリとした甘みの晩熟ぶどうです。熟期は9月下旬です。

甘み酸味粒の大きさ

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ヌーベルローズ

シャインマスカット系の赤粒ぶどう

歴史

シャインマスカットにロザリオロッソを交配した品種で、山梨の植原葡萄研究所で開発されました。

特徴

小粒ですが、糖度が20から22度と高く皮ごと食べられます。熟期は9月中旬です。

甘み酸味粒の大きさ

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緑ぶどう

シャインマスカット

人気急上昇の新品種

歴史

安芸津21号(スチューベン×マスカット・オブ・アレキサンドリア)に白南(カッタクルガン×甲斐路)を交配した品種で、農研機構 果樹研究所ぶどう・カキ研究拠点で開発されました。品種登録は2006年です。

特徴

果粒は12~14gで、マスカット香があり、糖度は20度程度と大変甘味があります。最近、その甘さとボリューミーな房で非常に人気のある品種で、岡山でその品質の良さが見出され、全国に広まりました。皮ごと食べられるので、女性や子供に特に人気があります。熟期は9月上旬~9月下旬です。

甘み酸味粒の大きさ

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栽培技術品質向上のための取り組みです。

微生物の培養

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微生物を培養するためエサが必要

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ヒーターとエアレーションで増殖しやすい環境をつくる

近年、人間の免疫力向上には、腸に生息する乳酸菌など人間にとって良い微生物の力が必須であることが分かっています。植物でも同様で、良い働きをする微生物は、病原菌から木を守ったり、土を軟らかくして根の伸長を助けたり、根が吸収しにくいミネラルを解かし吸収しやすくするなど、木の健全な生育には欠かせません。

当果樹園では、バチルス菌、酵母菌、乳酸菌などを培養して葉や土に散布しています。微生物を取り入れた栽培は、率直に言って時間も費用も掛かりますが、温暖化で栽培が難しくなってきている現状においては、良質な成果物を作るために必要な仕事だと考えています。

土壌診断

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採取スコップで土を取る

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土壌成分量で色の濃淡が変わる

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機械で色の濃淡を数値化する

土の中の肥料分は過剰でも不足していても健全な生育は望めません。例えば、「カリウム」が過剰であれば、「マグネシウム」が土壌中に十分あっても拮抗作用によって根から吸収しにくくなってしまいます。「マグネシウム」は葉緑素の中心元素であり、不足すると光合成の能力が低下し、生育に重大な悪影響を与えることになります。

土壌の成分を調べることなく肥料を与えることは、「羅針盤を持たずに探検に出るようなもの」と言っても過言ではありません。勘や経験に頼らず、科学的に分析することは、微生物を農業に取り入れる事と同様に、現代の農業では必要です。

当果樹園では、土壌診断キット「農家のお医者さん」を使っています。採取した土壌から肥料分を抽出し、これに試薬を入れます。色が変化するので専用の読み取り機で色の濃淡を数値に換算します。この数値が現在の土壌に含まれている肥料分になります。

土壌診断の結果に基づき与える肥料の量を決めて、過不足なく肥料を与えることができるようになります。樹木が生育しやすい土を作ることは、栽培者の義務と言えるでのではないでしょうか

環状剥皮

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7月20日

形成層まで剥がす 剥離幅 2㎝

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テープで保護

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9月25日

完全に癒合

根の皮を形成層に沿って環状に剥がすと、そこから細根が発生します。主に養分、水分吸収するのは細根なので、貴重な樹木や大木を移植する際、手間はかかりますが数ヶ月~1年前位にこの環状剥皮を行って、活着を良くします。

通常、環状剥皮を行う必要はありませんが、高温、日照不足などの外的ストレス、粒が想定より大きくなってしまった場合、着房数を多くしてしまった場合などアブノーマルなケースでは、粒の表皮直下にアントシアニンが十分に蓄積せず、着色不良となり、糖度が上がらなくなります。この場合、着色向上のため、ぶどうでは幹に環状剥皮を行うことがあります。

環状剥皮のメカニズムは、養分の通り道である師管部をはぎ取り、養分の根への転流を遮り房への分配を促します。このため、 環状剥皮を行うと樹勢が弱くなる恐れがあるので、勢いのない個体には実施するべきではありません。

ピオーネの場合、剥皮の幅は2cm、時期は満開後30~35日目が効果的です。 手順は、ナイフを表皮にあて、少し力を入れて入る部分まで押し込むと形成層まで届くので、あとは環状に剥がしていきます。その後、害虫の侵入と乾燥を防止するため、テープで保護します。

今回は、3本で実施し、うち2本の着色は期待通りでしたが、残り1本は伐採予定でしたので、基準より多く着房したためか、「赤熟れ」でした。またこの個体は例年あまり良く着色しない木であったこともあり、環状剥皮を行えばすべて良く着色するわけではないことがわかりました。このため、樹勢が弱くなるリスクもありますので、どうしても満足しなければ行う最終手段ではないかと考えます。

花穂伸長処理

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伸び過ぎた花穂

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6月に行う「粒間引き」はぶどう栽培で一番忙しい時期になります。「粒間引き」とは、1房当たり30~35粒位にしかも形良くするために、不要な粒をハサミで間引くことで、数千房を付ける当果樹園では、気の遠くなる作業が続きます。このため、少しでも省力化することが多くの栽培農家の願いでもあります。

「花穂伸長処理」とは、種なし化、果粒肥大のために行うジベレリン処理を5月のまだ蕾の段階で行い、房の軸を通常より伸ばすことです。これにより、粒の間隔が広がるため、密度が低下し、「粒間引き」の労力を低減させる効果が期待できます。

実際行った結果、確かに房は伸びましたが、個体によっては脱粒が激しく、商品としての価値は下がってしまいました。この処理は海抜の高いところでは効果が効きすぎるので、今後はジベレリンの濃度を下げてみたほうが良いのではないかと思いました。現在のところ贈答用などには難しいですが、一般用として提供できるよう研究してみるのもいいかもしれません。

根系調査

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調査対象木

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地下へは50㎝以上

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延長は4.3m

伐採するピオーネ(幹回り43cm)があるので、主根を追い掘りし、延長を測ってみました。理由は、おおまかな根系の範囲を把握することで、効率的な施肥ができると考えたからです。

まず、1本の主根を掘ってみました。ぶどうの根域は比較的浅いにもかかわらず、この根は40~50cm掘ってもまだ下に伸びていました。調査した圃場は水はけが良い山の斜面にあるので、根は水を求めて地下深くまで伸びていったものと思われます。ちょっとこれ以上掘れないので、他の主根を掘ってみました。

この根は、地面の浅い所を伸びていました。追い掘りしていくと、なんと約4.3mまで伸びていました。思ったよりも伸びているものですね。

草生栽培

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ヘアリーベッチ

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イタリアンライグラス

広大な果樹園内は、4月以降様々な雑草が生えてきます。この草を伸ばし、時々、草刈り機で刈る栽培方法を「草生栽培」、その逆でまったく草を生やさないことを「清耕栽培」と言います。

草生栽培の特徴としては以下の事項が挙げられます。

  • 土壌物理性の改善
  • 固結した土壌を、草の根が伸長することにより破壊し、また、根が腐朽することにより、土壌中に空隙が生まれます。

  • 土壌流亡の防止
  • 特に斜面に作られた果樹園では、降雨により土壌が流出してしまします。草を生やすことで根が表土を捕まえるので、年月をかけて作った貴重な土を守ることができます。

  • 堆肥効果
  • 刈った草が腐朽することにより、堆肥施用効果が期待できます。他から運搬するより労力を必要としないのは魅力です。

  • 土壌鎮圧の防止
  • 草がクッションとなるので、作業機械による土壌の鎮圧を抑制する効果があります。

  • 作業性の向上
  • 土ぼこりや、降雨によるぬかるみの防止に役立ちます。

  • 夏季の土壌温度抑制

    暑い時期に、地温の上昇を抑え、根を守ります。

清耕栽培の特徴としては以下の事項が挙げられます。

  • 病害虫の抑制
  • 他の植物を中間宿主とした病原菌や、草むらに住み着くスリップスなどの害虫などのリスクを抑えることができます。

  • 発芽時の地温上昇
  • 発芽時には地温を上げて、根の活動を促す必要があります。草が生えていると、地温の上昇が抑えられるので、芽の成長が遅くなります。

清耕栽培は草を生やさないので、鎌などを使い人力で雑草を抜根しなければなりません。旺盛な雑草の繁茂に対応するため、人力除草要員を確保しなければならず、比較的時間のある、おじいさん、おばあさんのいる農家であれば、対応することができるでしょうが、通常はなかなか難しいと感じています。

逆に、水持ちが良く、水はけも良い理想的な土壌の団粒化を図るためには、草生栽培こそ取り入れるべきだと思っています。

このため当果樹園では、草生栽培の多くのメリットを考慮し、さらに効果を向上させるため、「積極的草生栽培」を実践しています。これは、ぶどうの有効根域である幹を中心とした半径3mの範囲に播種し、土壌物理性と堆肥効果の向上を狙っています。

また、幹の周囲は、害虫による被害を軽減するため草は生やさず、水の蒸散防止のために萱(ススキなどカヤツリグサ科の植物の総称)を粉砕し敷き均しています。

現在までに、ヘアリーベッチ、イタリアンライグラス、ナギナタガヤ、アカクローバーを播種してみました。ヘアリーベッチ、ナギナタガヤは自然に倒伏するので草刈りの回数を減らすことを期待しましたが、倒伏するのが遅く、それまでの作業性に難点があります。イタリアンライグラスは逆に生育が早く、作業性が悪くなるので早めに刈らなくてはなりませんでした。アカクローバーは草丈が低いので他の植物に生育で負けてしまいました。

なかなか他の作業との兼ね合いがありベストな草種は見つかっていませんが、今後も情報を集めて試していきたいと考えています。

着色のメカニズムぶどうの色は何故3種類?

MYB遺伝子と着色の関係

ぶどうの果実色は黄色、赤色、黒色があります。何故、このように色の違いがあるのでしょうか?

それは、着色遺伝子である「MYB遺伝子」の組み合わせが関係しています。「翠峰」「白峰」などの黄緑色ぶどうは、着色しない遺伝子Aが4つあります。また、「安芸クイーン」「ゴルビー」などの赤色ぶどうは、着色しない遺伝子Aが3個と着色する遺伝子Eが1個、「巨峰」「ピオーネ」などの黒色ぶどうは、着色しない遺伝子Aが2個、着色する遺伝子Eが2個となっています。

黒ぶどうで最強の着色遺伝子を持つ「ブラックビート」は、なんと、着色する遺伝子Eを4個持っています。

また、MYB遺伝子とアントシアニンの含有量には関連があって、黄緑色のぶどうには、アントシアニンがまったく含まれていませんが、色が濃くなるにつれてアントシアニンの含有量は多くなる傾向になります。このため、「ブラックビート」には非常に多くのアントシアニンが含まれています。

果皮色 品種 MYB遺伝子 アントシアニン含有量
(mg/g fw)
白峰 A A A A
翠峰 A A A A
安芸クイーン A A A E 0.16
ゴルビー A A A E 0.20
クイーンニーナ A A A E 0.26
巨峰 A A E E 1.48
ピオーネ A A E E 1.14
藤稔 A A E E 1.75
ブラックビート E E E E 7.44

果実色とアントシアニン

果実中に含まれるアントシアニンにも種類があり、ぶどうでは、シアニジン、ペオニジン、デルフィニジン、ペチュニジン、マルビジンの5種類があり、品種によって含まれるアントシアニンの種類、含有量が違います。一般的に赤色系では、シアニジンが多く、黒色系ではマルビジンが多く含まれています。

着色の濃さとアントシアニンの蓄積量は比例関係にあり、赤熟れの巨峰より着色が良好の黒い巨峰は、約4倍もアントシアニンが多く含まれていたという試験結果があります。

着色不良の原因

着色不良の原因としては、高温、日照不足、着果過多、栄養不足などが考えられます。このうち、高温、日照不足はなかなか効果的な対策がとれないのが現状なので、健全な樹体を作り、決してその個体の限界以上に房数を多く着けないのが肝要です。

光合成により生成された糖分は、果実の他に枝、幹、根に分配されます。枝、幹、根に分配する糖分を減らすことは困難なので、必然的に果実に分配される糖分の量は限られてきます。このため、分配先の果実が多いと、一粒に分配される糖の量が少なくなり着色不良を起こしてしまいます。

また、着色時期の夜温も関係があります。植物は光合成により、葉から二酸化炭素を吸収し、酸素を放出しています。(詳細は「樹木の構造」を参照)

これとは別に、葉、幹、根から動物と同じように酸素呼吸をしています。呼吸は糖分を分解し、エネルギーを得るために必要で、細胞内のミトコンドリアで行われます。

呼吸の際には、光合成で生成した糖分を消費し、呼吸量は温度と比例して増加します。このため、夜温が高いと、呼吸量が増加し、無駄に糖分を消費することになります。その結果、果実への糖の分配量が減少するので、着色不良を起こす可能性が高くなるのです。当果樹園がある岡山県吉備中央町は標高が高いので、夏でも寝苦しいことが無いほど夜温が下がります。ぶどう栽培には恵まれた土地だと言えるでしょう。