木材腐朽の正体 |
樹木に木材腐朽菌が侵入すると、細胞壁の主要構成要素であるセルロース、セミセルロース、リグニンを木材腐朽菌の分泌する酵素によって分解し、樹木の支持力を低下させてしまいます。これにより、倒木、枝の落下が発生し、人体や構造物に大きな被害を与えることもあるので、街路樹、公園等の樹木管理者の中では罹病した不健全木対策が大きな課題となっています 。
最大の分類群がある菌類。子のうと呼ばれる袋の中に通常8個の胞子を形成してます。 草本、木本植物の病害を起こす種が多く存在していますが、腐朽力を有する種は、クリサイワイタケ目のクリサイワイタケ科やシトネタケ科菌類に限られています。トップジンによる防除効果がありますが、サクラなど限られた樹種しか登録がありません。
担子器と呼ばれる細胞の先端部に通常4個の胞子を形成する菌類で、菌糸の隔壁部にかすがい連結と呼ばれる突起を有する種が多いのが特徴です。
樹木に依存して生きる種が多く、栄養摂取様式から共生菌類(菌根性菌類)、寄生性菌類、腐生性菌類に大きく分けられ、腐生性菌類はさらに落葉分解菌、木材腐朽菌に分けられます。また、木材腐朽を起こすのは、ほとんどが菌蕈類と呼ばれる大型の子実体を形成するグループであることが知られています。
担子菌類に効果がある薬剤はバシタック水和剤(クミアイ化学工業(株))が挙げられますが、薬剤の適用病害の範疇に含まれていない(効果が公的に認められていない)ので、使用はできません。このため、罹病した樹木の治療方法が確立されていないのが現状です。
子実体 --- 「きのこ」のこと
地上部からの感染の多くは、胞子による感染と考えられています。
幹や枝に発生した子実体の胞子が、風や動物の媒介で他の樹木に付着し感染します。多くの木材腐朽菌の胞子は水分があればすぐ発芽し、菌糸となりますが、健全な樹木であれば樹皮に覆われているため菌糸が木部まで侵入するのは困難です。しかし、枯枝や木部に達する傷があれば、容易に木材腐朽菌が侵入できます。
夏から秋かけて、多くの種の子実体が成熟し胞子を放出ので、感染はほとんどこの時期に発生します。また、高温多湿の時期は菌糸の成長も盛んなので、腐朽は早く進行します。
地下部からは菌糸による感染で、根株腐朽を起こす場合が多くあります。
ナラタケは土壌中に根状菌糸束と呼ばれる強靭な菌糸の束を形成し、自力で隣接木の感染します。ベッコウタケ、シマサルノコシカケ、キンイロアナタケなどの根株腐朽菌は菌糸束を形成しませんが、樹木同士の根の接触部から隣接木に感染します。
菌名 | 目/科 | 病名 | 腐朽型 | 被害樹種 | 特徴 |
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オオミコブタケ | クロサイワイタケ目クロサイワイタケ科 | 根株心材腐朽病 | 白色腐朽 | 広葉樹 | 黒くもろいかさぶた状。はがれやすい。 樹木の材には黒い帯線が形成される。枯死木の根株に多く発生するが、生きた樹木を枯らすこともある。 |
Rosellinia necatrix | 白紋羽病 | 広葉樹 スギ、アカマツ | 地上部が急激にしおれて枯れる。根は腐敗し、褐色で異臭を発する。 根の樹皮はやや肥厚し、縦に不規則な亀裂ができる。根の表面には白色ないし灰白色のくもの巣状のからみついた菌糸か、白い菌糸膜が形成される。 |
菌名 | 目/科 | 病名 | 腐朽型 | 被害樹種 | 特徴 |
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ナラタケ | ハラタケ目キシメジ科 | ならたけ病 | 白色腐朽 | 広葉樹 まれに針葉樹 | |
ナラタケモドキ | ハラタケ目キシメジ科 | 根株心材腐朽病 | 白色腐朽 | 広葉樹 | |
マンネンタケ | ヒダナシタケ目マンネンタケ科 | 根株心材腐朽病 | 白色腐朽 | 広葉樹 | 子実体は光沢のある1年生 |
マツノネクチタケ | 根株心材腐朽病 | 孔状白色腐朽 | 広葉樹 | ||
レンゲタケ | 根株心材腐朽病 | 立方状褐色腐朽 | カラマツなどの針葉樹 | ||
キンイロアナタケ | 根株心材腐朽病 | 輪状白色腐朽 | 針葉樹 | ||
カイメンタケ | ヒダナシタケ目サルノコシカケ科 | 根株心材腐朽病 | 立方状褐色腐朽 | カラマツなどの針葉樹 | 子実体はひかく的もろい。出現頻度が高く、腐朽力も大きい。 |
シマサルノコシカケ | ヒダナシタケ目タバコウロコタケケ科 | 南根腐病 | 孔状白色腐朽 | 広葉樹、針葉樹 | 鹿児島以南に発生。子実体は多年生。病原性が強い。 |
エゾサビイロアナタケ | 根株心材腐朽病 | 白色腐朽 | 針葉樹 | ||
スルメタケ | 根株心材腐朽病 | 白色腐朽 | 広葉樹 | ||
ハナビラタケ | 根株心材腐朽病 | 立方状褐色腐朽 | カラマツなどの針葉樹 | ||
キゾメタケ | 根株心材腐朽病 | 白色腐朽 | ヒノキ、広葉樹 | ||
ベッコウタケ | ヒダナシタケ目サルノコシカケ科 | 根株心材腐朽病 (辺材や幹の上方にも広がる) | 白色腐朽 | 広葉樹 | |
Helicobasidium mompa | 紫紋羽病 | 多犯性で多くの樹種に発生 |
菌名 | 目/科 | 病名 | 腐朽型 | 被害樹種 | 特徴 |
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チャカイガラタケ | ヒダナシタケ目サルノコシカケ科 | 幹辺材腐朽病 | 白色腐朽 | 広葉樹、サクラ類に多く発生 | 子実体は1年生 |
ツガサルノコシカケ | ヒダナシタケ目ツガサルノコシカケ科 | 幹心材腐朽病 | 立方状褐色腐朽 | 針葉樹、サクラ類など広葉樹 | 子実体は多年生。傘に鮮やかな赤錆色の環紋が現れる |
カワウソタケ | ヒダナシタケ目タバコウロコタケ科 | 幹心材腐朽病 | 孔状白色腐朽 | サクラ類 | |
マスタケ | ヒダナシタケ目サルノコシカケ科 | 幹心材腐朽病 | 立方状褐色腐朽 | 広葉樹、まれに針葉樹 | 子実体はマス色で1年生 |
カイガラタケ | ヒダナシタケ目サルノコシカケ科 | 幹心材腐朽病 | 海綿状白色腐朽 | 広葉樹 | 子実体は1年生。子実層托は比較的硬いヒダ状で、子実層には剣状の菌糸 |
モミサルノコシカケ | ヒダナシタケ目タバコウロコタケ科 | 溝腐病 | 白色腐朽 | 針葉樹 | 子実体は多年生。子実層に剛毛体を欠く |
マツノカタワラタケ | 幹心材腐朽病 | 孔状白色腐朽 | 針葉樹 | ||
チャアナタケモドキ | ヒダナシタケ目タバコウロコタケ科 | 非赤枯性溝腐病 | 白色腐朽 | スギ、広葉樹 | 子実体は多年生 |
オオヒラタケ | 幹心材腐朽病 | 白色腐朽 | 広葉樹 | ||
ヒイロタケ | ヒダナシタケ目サルノコシカケ科 | 幹辺材腐朽病 | 白色腐朽 | 広葉樹、針葉樹 | 子実体は1年生 |
チウロコタケモドキ | 幹心材腐朽病 | 白色腐朽 | カラマツなどの針葉樹 | ||
カワラタケ | ヒダナシタケ目サルノコシカケ科 | かわたけ病 | 海綿状白色腐朽 | 広葉樹、針葉樹 | |
コフキタケ | ヒダナシタケ目マンネンタケ科 | 幹心材辺材腐朽病 | 白色腐朽 | 広葉樹、まれに針葉樹 | |
スエヒロタケ | ハラタケ目スエヒロタケ科 | 幹心材辺材腐朽病 | 白色腐朽 | 広葉樹、まれに針葉樹 |