樹木診断 |
最初にお断りさせていただきますが、私は樹木医ではありません。今まで教えていただいた尊敬する樹木医の方や、公開樹木診断で教えていただいた知識と自分なりの考えで記載しておりますので、参考までにご覧ください。
公園や街路樹の樹木は、私たちの心に潤いをあたえ、なくてはならない緑のオアシスを演出しています。この樹木は何の問題もなくそこに植わっているように思えますが、実は様々な病気に侵されているのです。
よく空洞がある樹木を見ませんか?
これは腐朽菌が内部に侵入し、腐朽を進行させて空洞になっているのです。
注意して見てください! 樹木からキノコが生えていませんか?
これは腐朽菌が胞子を作り、他の樹木へ移るため形を変えたものです。
このような不健全な樹木の状態を調べ、方策を検討し、樹勢回復まで行なっていくのが必要なのです。これにより、倒木事故を未然に回避し、安全安心な緑のオアシスの維持が可能となるのです。
樹木診断は樹木の構造、生理、病気の原因、樹勢回復方法に精通した人が診断を行います。一般的に「樹木医」の資格を持った、専門知識のあるかたが診断いたします。
樹木の外観から判ることを外観診断カルテに記入し、精密診断が必要か否か判断します。具体的には、樹木の活力(葉の大きさ、枝の張り具合等)を目視で、幹内部の空洞状態を木づちで、腐朽寸法ををコンベックス等で計測します。あまりにも状態が悪い樹木、倒木等の恐れのある樹木は精密診断をせずに直ちに伐採を行なうのが良いでしょう。
・貫入診断(レジストグラフ)
ドイツのIML社が製造し、日本では東邦レオ(株)が代理店で販売しています。
先端がドリル状の細い針を測定箇所(幹、根)に貫入し、抵抗をグラフに表していく機器で、測定箇所の腐朽割合を調査します。簡易に測定できるので現実的な精密診断方法ですが、幹が太く針が中心まで届かない場合は推測をしなければならない、針が必ずしも一直線に貫入せず、固い箇所を避けて曲がって貫入するなどの欠点があります。
幹を測定する場合は、根から侵入する腐朽菌を考慮して、地際ぎりぎりに貫入して下さい。
どのくらい幹が腐朽しているかグラフをから腐朽割合を計算し、その結果から伐採等の処置の判断するのですが、日本では判断基準が確立されていません。このため、多くの腐朽樹木の調査を行ったドイツのマテック(Claus Mattheck)博士の理論を採用しています。この理論は調査箇所断面積の50%以上が腐朽している場合は倒木の危険が高いというものです。
レジストグラフ
・音波計測(ピカス、インパルスハンマー)
幹の周りに測定器を数箇所取り付け、ハンマーによる衝撃のスピードを計測し、空洞や腐朽状態を想定する装置です。設置に手間がかかるため一般的ではありませんが、貴重な樹木の診断には良いでしょう。
・根株腐朽の診断
新しい樹木診断の手法です。
地上に子実体(キノコ)がなければ、根株腐朽菌に侵された根系はわかりません。外観診断等を行って状態は悪いが倒れる危険性がわからない場合などにに行います。
今後、様々な事例から、精度を高め、樹木診断の主流となっていく診断方法ではないかと個人的には思っています。根系診断が広まるには掘削時の労力軽減が問題になりますが、最近ではバキュームカーで土を吸い取りながらエアーで土を飛ばし、根を露出する方法も施工されてきています。
外観診断で気を付けなくてはいけないのは、キノコの存在です。
切断した根、幹から腐朽菌が樹木内部に侵入し、木材中のセルロース、へミセルロース、リグニンを分解します。あらかた食べつくした後、子孫を残す胞子を大気中に飛ばすためキノコ(子実体)として幹表面に出てきます。
このため、キノコの存在は、幹、根の材が腐朽していることを意味する重要な手掛かりなのです。よく気持ち悪いからとキノコを取ってしまうのは正解ではありません。取ってしまうと、樹木が腐朽しているサインが無くなり、経過観察対象から除外されてしまうからです。
東京都練馬区主催の樹木診断を受講してきましたので紹介します。
診断する樹木は白山神社(練馬区練馬4-2)の大ケヤキです。この大ケヤキは永保3年(1083年)に源義家が「後3年の役」で奥州に向かう際、戦勝を祈願してこの社に奉納したものと伝えられています。
樹高19m、幹周り8mで平成8年3月に国の天然記念物に指定されました。
大ケヤキ |
株元には大きな空洞が |
平成元年 | 倒木の危険を発見:倒木防止ロープの設置 |
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平成2年 | 樹木診断 |
平成3年 | 治療工事:土壌殺菌、支柱設置、腐朽処理他 |
平成5年 | 樹木診断 |
平成6年 | 第1回公開治療(上の段):土壌改良、柵設置 |
平成7年 | 第2回公開治療(下の段):不定根誘導 |
平成8年 | 治療工事(上の段):不定根誘導、施肥 |
平成9年 | 第3回公開治療:土壌交換、酸素管埋設、ナラタケモドキ菌除去他 |
平成10年 | 治療工事(上の段):トリコデルマ菌散布(ナラタケモドキ菌対策) |
平成11年 | 樹木診断、治療工事:トリコデルマ菌散布(ナラタケモドキ菌対策) |
平成18年 | 樹木診断:発根状況確認 |
平成19年 | 公開診断 |
枝葉量も多く、葉の大きさも以前と比較するとかなり大きくなっており、治療を始めた平成3年度と比較するとゆっくりであるが樹勢は回復傾向にあると考えられる。しかしながら、主幹のウレタン治療内部の状況が懸念される状態である。
・インパルスハンマー
幹内部の異常部の有無大小を調べる機械です。空気に比べ、幹の材部の方が振動の伝わりが速いということを利用した機械で、内部に空洞が存在する場合など、数値的に記録・判断することができます。
幹に釘を打ち、幹の反対側にセンサーを打ち込み、振動伝達速度を計測します。
ケヤキの基準値は
1500~1000m/s | 健全 |
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1000~500m/s | 腐朽が入り注意が必要 |
500~100m/s | 腐朽が激しく入っている状態 |
今回の結果は
直径82cm | 1回目 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | 平均 |
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南北 | 514 | 517 | 516 | 520 | 518 | 517m/s |
東西 | 487 | 482 | 483 | 483 | 484 | 484m/s |
ハンマーを打つ |
幹の反対側にセンサーを付ける |
・ピカス
この計測は、モジュールを幹に取り付け、それらをたたき、幹の中の音の伝わり方を解析し、空洞の大きさや位置、その樹木の腐朽の状態がカラー画像で確認できます。ピカスは非破壊で計測できることと、幹の大きな樹木のも対応可能な点が大きな特徴です。
幹の周り8箇所をハンマーで打つ |
パソコンに結果が表示される |
・土壌診断
土壌改良予定の箇所を掘削し、土壌断面の根茎の発達や土壌硬度等を調べます。
硬度は山中式土壌硬度計を使用して測定します。これは、目盛のついた円筒部の先端に円錐がついており、40mm縮むのに8kgかかるバネが入っています。
硬度計を平滑な土壌断面に垂直に突き刺し、円錐が何mm土壌中に入ったかで硬度を測定します。根の自由な伸長が妨げられる値は22mm以上とされていますが、土壌によって若干異なります。
また、土色をマンセル方式の土色帳で確認したり、格子状のマトリクスを作成し、エリア毎の根の太さ、本数を調査したりします。
山中式土壌硬度計 |
マトリクス |
マトリクスから診断 |